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今年2月に日本で映画化されたジャズ漫画「BLUE GIANT(ブルー・ジャイアント)」の北米プレミア上映会がジャパン・ソサエティーで開催され、音楽を作曲したピアニストの上原ひろみが登壇した。

このジャズ成長物語は、サックス吹きの筆者にとってバイブルだ。2年半前にニューヨークへ移住することを決めてから日本を発つまでの期間、本作のシーズン2(BLUE GIANT SUPREME)を全巻買って読んだ。主人公・宮本大(以下、大)がドイツで挑戦する姿と、そのときの自分を照らし合わせて気持ちを高めていたのを覚えている。そして今日のプレミアまでに映画のサウンドトラックを聴きまくってきた。

音が聴こえてくる漫画、ついに映画化

日本のアニメ映画(特にアメリカで上映される)に出てくる風景はギラギラネオンのTOKYOか緑豊かな田舎の二極端な印象があるが、本作で描かれる東京の街並みは落ち着いた色味で情緒があり、懐かしかった。田舎育ちの青年・大が見る都会東京は、アメリカでいうニューヨークに挑戦しにくる感覚と似ているのだろうか。アメリカのオーディエンスはとにかくリアクションが大きい。演奏シーンで拍手喝采となれば拍手するし、面白ければ爆笑するし、ハプニングが起こればオーノー!と、観客参加型の映画鑑賞が体験できるのはアメリカならでは。

© 2023 Blue Giant Movie Project © 2013 Shinichi Ishizuka, Shogakukan

漫画を読んでいてとにかく感激したのは、文字だけで音量や音質がよくぞここまで再現できるなと。ブルー・ジャイアントは通称“音が聴こえてくる漫画”なのだ。一方、映画ではサックスのキーを押す“パタパタ…”という音や、マウスピースをくわえて拭き始めるときのブレス音、リードとマウスピースの隙間風で“シューシュー”と鳴る音などがリアルに表現されていて経験者にはたまらない繊細な音の仕上がり。大の演奏シーンのサックスは、世界中の応募者の中からオーディションで選ばれた馬場智章氏が担当している。

業界人も登場。リアルな音楽物語

沢辺雪祈(以下、沢辺)はスカしていながらも、名門ジャズクラブ・So Blueの支配人・平へしつこくライブの招待メールを送るなどの懸命な一面もある。その努力が実ったか、支配人は一度はライブを見にきてくれるものの、本人に辛口なコメントを残して去る。“人の手を使って連絡先を聞き出し、礼儀もなく何度もメールしてきて…”と彼の音楽テクニック以外の態度についてもダメ出しをする場面では“気合いや熱意だけで乗り切れるほど人生甘くない”ことに気付かされる。

© 2023 Blue Giant Movie Project © 2013 Shinichi Ishizuka, Shogakukan

大は人情味があって懐が深い性格だが、案外ドライなところもある。平からダメ出しを食らった沢辺が落ち込んでいるときは“それはお前の問題だ”と言って突き放すし、玉田俊二(以下、玉田)がドラムに興味を持ち出したときは無理してグループに誘いはしないし、逆に彼の演奏がド下手でも平然として仲間でいる。“ジャズはバンドみたいに一生一緒にやるものではない。互いを踏み台にして名を上げてゆく”というジャズミュージシャンならではのアティチュードか…ここがちょっとスポ根とは違うところだ。

音楽に人生を捧げる大の情熱にはただただ共感する。筆者がレコード会社に就職した直後の新人時代に「どこの営業さんよりも貴方が一番、音楽好きだと伝わるわ」と取引先の方に言われた。それはニューヨークに来ても同じで、アワード受賞サウンドエンジニアの方とお話したときも「音楽好きが伝わりすぎて羨ましい」と言われたことがある。

作中には、日本の名門ジャズクラブの支配人や業界関係者が登場する。ライブ会場で主人公たちのグループ・JASSに声をかけるレコード会社・ミュージック21の五十貝は実在の人物で、ユニバーサルミュージックのクラシック&ジャズ部門を統括する五十貝氏がモデルになっている。

上原ひろみが語る、音楽との向き合い方

本作の音楽監督を務めたのはニューヨーク在住のピアニスト・上原ひろみ(Hiromi)。作中では沢辺のピアノ演奏シーンも担当している。

Photo by Ayumi Sakamoto

多くのプロミュージシャンを輩出するボストンのバークリー音楽院を卒業し、グラミー賞受賞やニューヨークの老舗ジャズクラブ・Blue Noteで13年連続公演を果たすなど、グローバルに活躍する彼女のトークは軽快で、迷いのないアンサーばかりだった。

この映画が作られる前に音楽が先行して作曲されたそうだが、各シーンの指定された尺に合わせて曲を作る過程が大変だったと話す。小規模なジャズクラブでの演奏シーンは、よりリアルな音質を再現するために、あえて完璧なチューニングにしないようにピアノテクニシャンにオーダーしたと言う。(実際にそうらしい)

全くのドラム初心者である玉田の“下手くそなドラム”をプロドラマーの石若駿氏が担当したことについては「石若さんは監督に“まだ上手すぎる”と撮影中に言われていました(笑)私にとっても10代のプレイヤーを演じるのはチャレンジでした」と話した。インタビュアーが「僕を雇えばド下手なドラムが披露できたのに」と言うと「実は私も監督に“やってみたらどうですか”と提案はしたんです」と上原氏。

Photo by Ayumi Sakamoto

オーディエンスへは「人生は挑戦し続けることが大事。大が毎日サックスを練習するように、私もいつも学ぶことに貪欲です」と話す彼女の音楽との向き合い方はこうだ。「私の中で音楽は2つのジャンルに分かれていて。“自分が感動するか、そうでないか”なんです。音楽は指から耳ではなく、ハートとハートで伝えるもの。それがこの漫画で感じたことです。ライブは私にとって旅のようなもので。自分がキャプテンになった気分で、会場に来てくれた人に“ようこそ!一緒に旅に出かけましょう”って」

JASSはミュージック21の五十貝に声を掛けられて名刺を受け取る。“ただ名刺をもらっただけで、ここからアルバムの発売までは品川から月までの距離くらい遠いぞ”と言う沢辺に対して“でもこの人、月まで一緒に行こうよって言ってくれてるんだよな?”と話す大の前向きさと確固たる自信がハートに響いた。

作る人、聴く人、両者を繋げる人あってこその音楽。ニューヨークに来てからはジャズクラブに通う日々だが、改めて映画「スウィングガールズ」以来のジャズ熱が再発した。

FILM: BLUE GIANT

Dir. Yuzuru Tachikawa, 2023, 120 min., DCP, color, in Japanese with English subtitles. With Amane Okayama, Yuki Yamada, Shotaro Mamiya.
Dai Miyamoto’s life is turned upside down the day he discovers jazz. A former high school basketball player, Dai picks up a saxophone and begins practicing day and night, determined to become one of the greatest of all time. He leaves his sleepy hometown for the bustling nightclubs of Tokyo, but soon finds the life of a professional musician is not for the faint of heart. His passion eventually wins over the cocky but talented pianist Yukinori, and after Dai convinces his friend Shunji to learn the drums, they launch a new jazz trio whose rough sound contains a raw energy that quickly wins attention from local audiences. But what does it take to truly be great? From director Yuzuru Tachikawa (Mob Psycho 100) and based on the award-winning manga, Blue Giant is a moving ode to the power of music and the artist, featuring electric performances and a stunning jazz soundtrack. (GKIDS)

ARTIST: Hiromi

Hiromi began studying piano at the age of six. She attended Berklee College of Music in Boston, Massachusetts, where she was mentored by jazz legend Ahmad Jamal. Hiromi is a perennial favorite on DownBeat’s Annual Critics and Readers Poll, and she has performed at the world’s finest jazz festivals, including Montreux, Umbria, North Sea, Newport and Monterey. Her work has been celebrated by media including the New York Times, NPR and the Washington Post, and she was a featured performer at the Tokyo Olympics opening ceremony in 2021.

HOST: Japan Society Film

Spurred on by the success of the 1970 Donald Richie-curated MoMA retrospective The Japanese Film: 1896-1969, Japan Society committed to making film one of its key programs in the early seventies—quickly becoming the premier venue for the exhibition of new Japanese cinema as well as career-spanning retrospectives on seminal directors and actors. In 1979, Japan Society established the Japan Film Center, formalizing film as a full-fledged, year-round program aimed at cultivating a deep appreciation and understanding of Japanese film culture among American audiences. Over the years, Japan Society Film has hosted numerous high- profile premieres and programs that include visits from Akira Kurosawa, Toshiro Mifune, Hideko Takamine and Nobuhiko Obayashi. In 2007, Japan Society Film launched JAPAN CUTS: Festival of New Japanese Film, the largest festival of its kind in North America.

Peter Tatara (Director of Film), Hiromi, Alexander Fee (Film Programmer) Photo by Ayumi Sakamoto