自らを“ロックスター”と称しながらも、そのアーティスト名は“リトルボーイズ”。
堂々とした風格と余裕を持ちながらも、日本特有の控えめで謙虚な精神を併せ持つ二人組が、2024年に2度の日本ツアーを完走した。デビューからわずか2年足らずで海外ツアーやグローバルなアーティストとのコラボレーションを実現し、爆速で躍進を遂げたLittle Boysのこれまでを振り返る。
メンバーのエルとエッセの出会いは、2020年の冬。日本行きの飛行機でたまたま隣り合わせた二人は、互いにミュージシャンであったこと、日本好きだという共通点からすぐに意気投合した。その後、90年代のエレクトロロックグラムに影響を受けたバンド「Absurda」をはじめ、さまざまなバンドやプロジェクトで活動を重ねた二人は、現在の二人体制に至りLittle Boysを結成。2022年にセルフタイトルのアルバム「Little Boys」でデビューを果たす。翌年にリリースしたセカンドアルバム「Ricordati che devi morire」はイタリアのチャートにランクインし、さらにイタリアのMTV New Zoneに6週連続で選曲されるなど、一躍注目を浴びる存在となった。
タイトル「Ricordati che devi morire」は英語で“Remember That You Have To Die”を意味する。パンク、ノイズロック、デルタ・ブルースの影響を受け、ブルースの生々しさとアシッド・パンクの傲慢さを兼ね備えた作品だ。制作には、MIYAVIやThe Strokesなどを手掛けた吉岡俊一氏や、アニメやドラマ音楽を担当する岡本和憲氏などの日本人サウンド・エンジニアが参加。レコーディングは、Nirvanaのプロデューサーとして名高いSteve Albiniがかつて所属していたイタリアのソット・イルマーレ・レコーディング・スタジオで行われた。
Little Boysを牽引するのは、フロントウーマンのエルだ。哲学や詩からインスピレーションを得て作詞・作曲を手掛ける彼女は、自身の著書も執筆するほど文学的で、エキセントリックなアーティスト。その歌声はときに鋭くいびつで、ときに優しく響く。MIYAVIやL’Arc〜en〜Ciel、Gacktなどの音楽に影響を受け、日本への興味を深めたエル。左利きのギタープレイが特徴的だ。
エルを支えるのは、ドラムのエッセ。自分探しの旅の途中でエルと出会い、Little Boysの結成に至った彼は、作曲にも関わっている。控えめで穏やかな性格で、侍文化やアニメを愛する。(最近のお気に入りは「呪術廻戦」「PSYCO-PASS」「NARUTO」)Little Boysの制作ではアレンジ、サウンドデザイン、リズムセクションを担当。「Caino」の名義でトラップミュージックの制作にも取り組むなど、多彩な音楽スキルの持ち主だ。
セカンドアルバムの発売後、イタリア国外からのオーディエンスも着実に増やし、年末にはヨーロッパツアーを遂行したLittle Boys。そして2024年3月には、関東7会場を回る初の日本ツアーを開催するまでに至った。自身初の日本ツアー発表時、エルは次のように語っている。
ロックデュオ・Little Boysの即興かつワイルドな音楽を日本に届ける時が来ました。最新アルバム「Ricordati che devi morire」では日本の制作のチームとの貴重な制作過程を経て「美的ミニマリズム」というコンセプトを具現化しました。ラフで美しく―。それが、私たちの掲げるテーマです。
Little Boysの来日は、Rolling Stone Japanをはじめとする国内の音楽メディアからも注目を集めた。
日本ツアー中にはシングル「GREED」をリリース。作曲は、ドイツ・ベルリン在住の日本人アーティスト・Steamaが担当した。今作でも日本人クリエイターとの共作が実現し、日本のファンに向けて親しみを込め、ジャケットにはアニメイラストを起用している。楽曲について、エルは語る。
愛し合う者同士は、議論を重ねて相手よりも優位に立つことを望み、必要以上のものを欲しがります。時には沈んで傷つきたくなって、さらに深みに陥った末にもっと生きていると感じたいという欲求が勝ることもある。そんな、お互いを求めながらも誘惑というゲームに賭ける2人の争いや野心を歌った曲です。
Little Boysのライブは、シングルボーカルにドラムと至ってシンプルなスタジオセットで構成されている。トークは日本語でシンプルに行われ、深くお辞儀をしてステージを去る。曲作りもパフォーマンスも一貫してシンプルだが、その内側には熱く煮えたぎるほどの情熱が込められ“日本の美学”が感じられる。
来日中に撮影された「Una rivale」のミュージックビデオでは、日本ツアーのライブ映像や日本のファンと交流する様子などが映像に収められている。撮影は東京を拠点とするクリエイティブチーム「WANDERERS」が手掛け「Una rivale」が意味する“ライバル”を表現したビデオに仕上がった。
2024年夏、早くも2度目の日本ツアー「Little Boys + DURAN Split Tour」が発表された。前回のツアーで「また日本に帰ってきます」と約束したLittle Boysは、有言実行した。しかも、日本のロック界を牽引するシンガーソングライターでギタリスト・DURANとの対バンだ。
稲葉浩志(B’z)や清春、藤井風など数々のミュージシャンのステージでギタリストとして活動し、ソロとしては国内外でライブ活動をおこなうDURANは、国境を超えてロックする者同士、Little Boysと通じ合った。“同じセンスを持った日本のアーティストとのこのツアーは間違いなく唯一無二のものになると感じています”とエルが話すように、DURANはこのロックデュオに可能性しか感じていなかったのだ。
道端に落ちてた小石がGemに見えるのか、見えないのか。僕らから見たLittle Boysの音は“ロックンロールを殺すな”と叫んでいた。そうロックンロールを殺すな。
It’s not easy going through life. Constantly questioning the punk credibility of everyone around you.
この対バンツアーの初日にはキングブラザーズがゲスト出演し、会場を盛り上げた。こうしてLittle Boysは着実に邦楽ロックファンの目に止まり、バンド界で知られるインタビュアー・ジョー横溝のラジオ番組で楽曲が紹介されるようになった。
イタリアと日本、そして向かうは未開拓の大陸へー。
躊躇なく国境を跨いでロックし続けるLittle Boysの2025年には、DURANほか豪華アーティストとのコラボレーションによるニューアルバムの制作が進行中で、さらに大きなプロジェクトが待ち受けている。
Profile: Little Boys
Little Boys is a power rock duo from Italy, formed in Japan following a bet made on an airplane during the winter of 2020. The band consists of Elle on guitar/vocals and Esse on drums. After experimenting with other bands and collaborating with renowned Italian artists, the duo evolved into their current two-piece formation, driven by the allure of musical simplicity.
Their debut album, “Little Boys,” was released in late 2022, marking a return to organic, unembellished artistry. In July 2023, the duo’s first Japanese song, “Satsugai,” ranked in the Italian charts. Their second album, “Ricordati Che Devi Morire,” was released in December 2023, with the title track debuting a week earlier in December. The album received high praise from critics, solidifying Little Boys as an innovative force in the rock genre and earning them a feature in MTV’s New Zone for 6 months.
Building a growing international fanbase, Little Boys embarked on a European tour in 2023. In March 2024, they completed their first Japan tour, performing at seven venues across central Japan, including Tokyo. They released a single “GREED” during the tour. In September 2024, they returned for a successful second Japan tour “Little Boys + DURAN Split Tour”, joined by the incredible guitarist DURAN.